業界解剖 #07 ・ Webtoon(縦読み漫画)

スマホで縦に読む ─ Webtoonが変える漫画の未来── 「待てば無料」の経済学と、その全登場人物(Naver vs Kakao の相関図)

🕒 読了 じっくり約40〜50分 📊 データ最終確認 2026年7月 🏷 コンテンツ産業 / デジタル漫画
$64〜106
世界webtoon市場
(2024・推計に幅)
約26〜34%
年平均成長率(CAGR)
(調査で見解が分かれる)
$4.97
ピッコマ日本消費支出
(2024・全アプリ1位)
1.7億人
Naver Webtoonの月間利用者
(2024・150カ国超)

日本で最も売れているアプリは、ゲームではない。2024年、日本の消費者が最もお金を使ったアプリは韓国発の漫画アプリ「ピッコマ」だった。しかもそこで読まれているのは、ページをめくる従来の漫画ではなく、スマホで上から下へ縦にスクロールする「Webtoon(ウェブトゥーン)」。漫画の"読み方"そのものを変えつつある、この新潮流を解剖する。とくに力を入れるのは、この産業を動かす登場人物たち——Naver陣営とKakao陣営という二大勢力、量産を支える制作スタジオ、そして後を追う日本勢——を、相関図で一望できるように描くことだ。

LENS ① 定義とスケールWebtoonとは何か

🕒 この章:約4分

Webtoonは韓国発のデジタル漫画で、特徴は3つ。縦スクロール・フルカラー・スマホ最適化だ。従来の漫画が白黒・見開き・右から左にコマを追うのに対し、Webtoonは上から下へ、片手で親指を滑らせて読む。SNSと同じ操作で読めるこの形式が、世界のスマホ世代を掴んだ。

市場規模については、注意が必要だ。調査会社によって2024年で64億〜106億ドルと1.7倍近い開きがあり、CAGRも26〜34%と見解が割れる。これは各社が「Webtoon」の定義や対象範囲を変えているためで、そのまま鵜呑みにはできない。より実態に近いのは、韓国系2大プラットフォーム(Naver系+Kakao系)の実売上合算で見たおおむね50〜60億ドル規模という数字だ。いずれにせよ、猛スピードで伸びる新市場であることは間違いない。

LENS ② 成り立ちポータルサイトの"無料コーナー"から始まった

🕒 この章:約3分

Webtoonのルーツは2000年代初頭の韓国。ポータルサイトのDaumが2003年に、Naverが2004年に、アマチュア作家向けの無料漫画コーナーを設けたのが始まりだ。当時の韓国は出版漫画市場が小さく、紙のインフラが弱かった。その"弱み"が逆に、しがらみのないデジタル・ネイティブな漫画文化を育てた。日本のように成熟した紙の雑誌文化がなかったからこそ、韓国はゼロから「スマホで読む漫画」を発明できたのだ。スマホの普及とともに、縦スクロールという新様式が花開いていく。

LENS ④ 収益構造「待てば無料」という発明

🕒 この章:約4分

Webtoonの稼ぎ方の核心が「待てば無料(wait-to-free)」だ。各話は公開後、一定期間(数時間〜1週間)待てばタダで読める。でも「続きが気になる、待てない」人は、コインを買って最新話を先に読む。無料で間口を最大限広げ、"我慢できない気持ち"だけに課金する——行動経済学を突いた巧みなモデルだ。

図1:「待てば無料」モデルの流れ

無料で読ませる
間口を最大化・習慣化
"待てない"を作る
続きが気になる引き
コインで先読み課金
1話数十円の積み重ね
ヒットをIP化
ドラマ・アニメ・ゲーム
収益源は「先読み課金」に加え、広告(広告を見れば解放)、そして最大の伸びしろである「IP化(映像化)」。先読みは1話あたり数十円と少額だが、熱心なファンが毎日積み重ねることで大きな売上になる。ゲームの「基本無料+課金」とまったく同じ発想だ。

LENS ③ 仕組み制作の仕組み ─ スタジオ量産という革命

🕒 この章:約5分

Webtoonが従来の漫画と決定的に違うのは、読み方だけではない。作り方(制作体制)が根本的に異なる。日本の漫画が「漫画家+アシスタント」の個人作家型なのに対し、Webtoonは完全分業のスタジオ量産型だ。

制作は「企画/ネーム(構成)/線画/彩色/背景/仕上げ/編集」といった工程に分けられ、各専門スタッフが担当する。アニメやゲーム開発に近いパイプラインだ。フルカラーの作品を毎週安定して供給するには、この分業体制が欠かせない。1人の天才に依存しないため、速度と量を出せるのが強みだ。

この量産を支えるのがCP(コンテンツプロバイダ)と呼ばれる制作スタジオ群。近年はプラットフォームが作家と直接契約するより、CP経由(IP主導・スタジオ量産)の比率が高まっている。結果として、産業はプラットフォーム→CP→個々の作家というピラミッド構造になり、作家は「アーティスト」から「管理される労働者・リスクを負う請負」へと立場が変わりつつある。分業が進むほど1人あたりの単価は下がり、長時間労働になりやすい——2025年にはNaver子会社のスタジオで賃金交渉が労働争議に発展するなど、この"量産の影"も表面化している。

🏷 速さと量の代償:スタジオ量産は「毎週フルカラー新話」というWebtoonの魅力を支える一方で、作家の作家性が薄まり、労働環境が悪化しやすいという副作用を抱える。日本型(作家の権利が強いが量産に不向き)とWebtoon型(量産できるが作家が労働者化)は、それぞれ長所と短所が裏表になっている。

LENS ⑤ 登場人物【相関図】Naver vs Kakao の二大陣営

🕒 この章:約8分

Webtoon産業を理解する最短ルートは、「Naver陣営」と「Kakao陣営」という二大勢力の対立を押さえることだ。この2つの韓国IT大手が、プラットフォーム・制作・IP化までを陣取り、世界のWebtoonを二分している。まずは全体を一枚に。

図2:Webtoon二大陣営の相関図

🟤 Kakao陣営
  • Kakao Entertainment(韓国)
  • ピッコマ(Kakao Piccoma)(日本)
    2024年 日本アプリ消費支出1位 約4.97億ドル
  • KakaoPage(韓国・Web小説/縦読み)
  • 戦略:海外は「選択と集中」。日本(ピッコマ)と北米に絞り、欧州・台湾等から撤退
  • 強み:日本市場の圧倒的収益・Web小説からのIP
Naver系は「世界に広く・巨大なMAU」、Kakao系は「日本で深く・高収益」という対照的な戦略。日本市場ではピッコマ(Kakao)とLINEマンガ(Naver)が売上上位を独占してきた。両社とも韓国国内の課金は頭打ちで、成長の主戦場を日本と北米に移している。

Naver陣営 ─ 世界に広く展開する「規模」の王者

Naverの持株会社Webtoon Entertainmentは、2024年6月にナスダック上場を果たした。売上約13.5億ドル、月間利用者(MAU)約1.7億人、150カ国超で展開する世界最大のWebtoonプラットフォームだ。日本ではLINEマンガとして展開し、2024年下半期には日本の非ゲームアプリで売上トップに立った。資本構成はNaverが約60%、LY Corp(ソフトバンクとNaverの合弁下にある旧LINEヤフー)が約24%を保有する。

Naver陣営の構造グローバル・規模
  • NAVER(韓国IT大手)── 約60%
    • Webtoon Entertainment(ナスダック上場)
    • WEBTOON(グローバル/北米・韓国)
    • LINEマンガ(日本)
    • └ 制作スタジオ群(Studio LICO 等)
  • LY Corp(旧LINEヤフー)── 約24%

Kakao陣営 ─ 日本で深く稼ぐ「収益」の王者

もう一方の雄がKakaoだ。その主力兵器が日本のピッコマ。2024年にゲームを含む全アプリで日本の消費支出1位(約4.97億ドル)を獲得し、非ゲームでは5年連続で首位を守る。Kakaoは韓国国内・グローバルで一時拡大したが、近年は「選択と集中」に舵を切り、欧州(フランス)・台湾・インドネシアなどから撤退。日本のピッコマと北米(Tapas)に資源を集中させている。「広く薄く」より「日本で深く」——これがKakaoの生存戦略だ。

Kakao陣営の構造日本集中・高収益
  • Kakao Corp(韓国IT大手)
    • Kakao Entertainment
      • ピッコマ(日本・消費支出1位)
      • KakaoPage(韓国・Web小説/縦読み)
      • └ Tapas(北米)

後を追う「日本勢」 ─ 出版社とIT大手の反攻

日本市場を韓国系2社に押さえられた格好の日本勢だが、2024年以降、反攻を本格化させている。原作(漫画IP)と資本を持つ日本の出版社・IT大手が、自前の縦読みプラットフォームやスタジオを次々に立ち上げているのだ。

図3:Webtoonをめぐる日本勢の参入

プレイヤー参入の形特徴
集英社「ジャンプTOON」創刊(2024年5月)ジャンプIPの縦読み化+オリジナル。開発はサイバーエージェント
サイバーエージェント縦読みスタジオ「STUDIO ZOON」(2022)Amebaマンガで独占連載。編集に講談社出身者
KADOKAWA×ピッコマ業務提携(2024年12月)週刊e-mangaマガジンを共同創刊
楽天「R-TOON」(2023〜24)ディズニー作品の縦読み化なども
講談社・小学館・DMM等縦読み企画を続々各社が商機を狙い参入(詳細は各社発表)
構図は明快だ。プラットフォームは韓国系(ピッコマ・LINEマンガ)が寡占し、原作IPと編集力を持つ日本勢が後発で追う。ただし日本勢の武器は、数十年かけて蓄積した強力な漫画IPと編集ノウハウ。「縦読みの器」を韓国が、「中身の物語」を日本が——という補完関係になる可能性もある。

LENS ⑥ 競争環境日本市場は"ウェブトゥーン戦国時代"

🕒 この章:約4分

日本は、世界でも特異なWebtoonの主戦場だ。もともと世界最大の漫画大国である日本で、韓国発の縦読みアプリが課金トップを占める——この逆転現象が起きている。

図4:日本のアプリ消費支出ランキング(2024・全カテゴリ)

ピッコマ(Kakao)
$4.97億
モンスト(ゲーム)
$4.82億
LINEマンガ(Naver)
$4.18億
漫画アプリ2本が、あの『モンスト』を挟んで日本の課金トップを占める。2025年にはLINEマンガがゲーム含む総合1位に浮上する場面も。これに日本の出版社(集英社「ジャンプTOON」)やIT大手(楽天・サイバーエージェント)が参入し、まさに"戦国時代"の様相だ。

この競争が示すのは、漫画の勝負が「作品の面白さ」だけでなく「アプリの使いやすさ・課金設計・レコメンド」という、テック企業の土俵に移りつつあるということだ。だからこそ、コンテンツを持つ出版社と、テックを持つIT企業が組む動き(集英社×サイバーエージェント、KADOKAWA×ピッコマ)が加速している。

LENS ⑤ 登場人物(続)Webtoonは"原作の鉱脈"でもある

🕒 この章:約5分

Webtoonの価値は課金収入だけではない。映像化される原作の鉱脈という、もう一つの巨大な顔がある。過去10年でWebtoon原作の映像作品は数百本が作られ、Netflixの世界ヒットも数多く生んだ。

教科書的成功例:『俺だけレベルアップな件』

その代表が『俺だけレベルアップな件(Solo Leveling)』だ。この作品の展開は、ワンソース・マルチユースの完璧な教科書になっている。

図5:『俺だけレベルアップな件』のIP展開

Web小説
D&C Media(Kakao系)
ウェブトゥーン
KakaoPage/ピッコマ
アニメ
A-1/Crunchyroll
ゲーム
Netmarble『Arise』
映画
2026年展開
Web小説→ウェブトゥーン→アニメ→ゲーム→映画という多段展開。アニメ版(A-1 Pictures制作、Crunchyroll配信)は2025年のクランチロール・アニメアワードで「アニメ・オブ・ザ・イヤー」を受賞(韓国ウェブトゥーン原作アニメ初)。ゲーム『Solo Leveling: Arise』(Netmarble)は配信3か月で売上1億ドルを突破した(ただしその後は月次で急減)。注目すべきは、この超大型IPがNaver系ではなくKakao系(KakaoPage/ピッコマ)発である点だ。

実写ドラマ化の鉱脈

実写ドラマの世界でも、Webtoonは原作の宝庫だ。『梨泰院クラス』(Kakao/Daum原作)、『女神降臨』(Naver原作、累計8.5億ビュー超)、『Sweet Home』『今、私たちの学校は…』など、Netflixの世界的ヒットの多くがWebtoon原作である。1本のWebtoonが、アニメ・ゲーム・実写ドラマ・映画へと化ける。1つのIPを核に複数の収入源が回る"弾み車"が、ここでも力強く働いている。プラットフォームがIPと配信と映像化の窓口を垂直統合できるのが、Webtoon陣営の強みだ。

LENS ③ 仕組み(比較)日本漫画 vs Webtoon ─ 構造の違い

🕒 この章:約4分

ここで、従来の日本漫画とWebtoonを正面から比べておこう。読み方も、作り方も、稼ぎ方も、実は正反対だ。

図6:従来の漫画 vs Webtoon

比較軸Webtoon従来の日本漫画
読む向き縦スクロール見開き・右→左
フルカラー基本は白黒
デバイススマホ最適化紙/タブレット
制作体制分業・スタジオ量産型作家+アシスタント(個人作家型)
課金待てば無料+話単位課金単行本・雑誌の購入
作家の立場管理される労働者化しやすい作家の権利・作家性が強い
量産性高い(速く・多く出せる)低い(1人の天才に依存)
IP化の主導権プラットフォームが垂直統合出版社+製作委員会で分散
1ページ分の情報が、Webtoonでは5〜7コマ分の縦の流れに置き換わる。スクロールの速度で"間"を演出できるのが縦読みの武器だ。Webtoonは「速く・多く・世界へ」、日本漫画は「深く・緻密に・作家性で」——それぞれの強みが構造から来ている。

Webtoonと日本漫画は、優劣ではなく「別の設計思想を持つ2つの漫画」。競合しながら、互いの長所を取り込み合っている。

LENS ⑦ 論点と未来縦読みは漫画を"上書き"するのか

🕒 この章:約4分

論点は3つ。第一にフォーマット競争。縦読みか見開きかは決着せず、むしろ融合が進む。日本の漫画アプリも縦読みモードを導入し、境界は溶けつつある。読者は「面白ければどちらでもいい」からだ。

第二にAIと量産。Webtoonは分業・スタジオ制で量産に向くぶん、生成AIの活用も先行する。彩色や背景の一部をAIが担う現場も増えている。ただし韓国では作家の反発も強く、AIの扱いをめぐる議論が続く。韓国は2024年末に「AI基本法」を可決し(2026年施行予定)、産業振興を重視した柔軟な設計を選んだが、著作権の扱いは今後の課題として残された。「速く安く作れる」AIと、「作家の権利・雇用」をどう両立させるかが問われている。

第三に日本漫画との関係。競合か、融合か。ピッコマやLINEマンガが席巻する一方、日本の緻密なストーリー漫画の強みは健在で、両者が刺激し合いながら"漫画"の定義そのものを広げている。プラットフォーム(器)は韓国が握り、強力なIP(中身)は日本が持つ——この補完関係が、次の時代の漫画産業の形を決めるだろう。

📌 3つの持ち帰り

  1. Webtoonは縦スクロール・フルカラー・スマホ最適化の韓国発漫画。スタジオ量産で速く多く作れるのが構造的な強み(ただし作家の労働者化という影も)。
  2. 登場人物はNaver陣営(規模・グローバル)vs Kakao陣営(日本で高収益)の二大勢力。日本勢(集英社・楽天・サイバー)が原作IPを武器に後発で追う。
  3. 稼ぎ方の核は「待てば無料」+話単位課金、最大の伸びしろはIP化(映像化)。『俺レベ』がその教科書。縦読みvs日本漫画は決着せず融合へ。